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嗅覚研究の歴史

18世紀フランス、百科全書派の1人であるディドロは、これまでの感覚のヒエラルキーに反論をして、以前は最高位に見られた視覚を何よりも皮相なものということでその地位を奪い取りました。

 

それと引き換えに特に計り知れなくて哲学的感覚ということで触覚を最高位に載せたわけですが、嗅覚に対してはなんと、「情欲的」だというのをこの性質という形で受け取り、アリストテレスとかトマス・アクィナス以降、感覚のセンターの場所をチェンジしようとはしないでいたのです。

 

 

でも、19世紀末頃より、情欲的で性的な香りとか嗅覚に関し、突然これまでとは異なる注意が払われることに結びつきます。

 

この糸口については、ダーウィンの進化論のお出ましです。

 

ダーウィン本人は、たくさんの哺乳類で嗅覚が特に大事な感覚であること、そして、邪魔者を阻害したり伴侶を魅つける作用で香りが大変な役目を果たしているのを述べるに留まっていますが、他方で「一番良い匂いを出す雄がほかのどのような雄と比べて効果的に雌を勝ち得たり、一番多量に子供を残して、少しずつ形成されてきた線とか匂いをその子供たちに広めるのであれば、こうした臓器の発育は性淘汰を以ってしたならしっかりと汲み取れる」だとも語っています。

 

その香りに因る性淘汰といった捉え方を推進するかのごとく、香りの大切さを力説する著述が「ダーウィン以降」激増します。

 

『種の起源』の発刊が1859年、『人類の起源』が1871年だけど、1881年にグスタフ・エイガーと称される人物が『種の起源』(「起源」といった名称のみ目にしても、それが進化論の広範囲な反応の直下であるということが知ることができる)を出して、そんな中で香りの大切さを標榜して、香りこそ心の起源だという想像以上の総論に及んでいます。

 

 

さらに、1886年だとフランスのオーギュスト・ギャロパンが『女性の香り』を著して、香りの相乗効果が性愛の真骨頂だと断言しているし、ドイツのダーウィン主義者エルンスト・ヘッケルは原始的な生き物におきまして性的な魅力ということで機能するものは香りと味わいだとして、これが此度私たちが「愛」と言っている物理化学的な事象の原点にして促進役だと考えています。

 

ヘッケルはさらに、発情した生物に機能する、香りといった妖艶な刺激の効力を、生殖器を奮い立たせることを狙った有機体の無自覚な反動に因るものと考えていました。

 

今の言い回しで言うとフェロモンに該当する香りに因る生殖機構を考慮しているというわけで、フェロモンの開拓を予言したものであるとも取れます。正直なところ、ダーウィン以後に高まった、生物進化とか性淘汰に作用する香りとか嗅覚に対する興味とか研究の1つの到着点が、フェロモンの開拓だったかもしれないわけなのであります。

 

 

貶められていた嗅覚が、進化論の出現と一緒に生物学者とか進化論者により注目を集めるままになってきましたが、結果的に反って、貶められていた事情の1つであった性と香りの繋がりが再び力説されてしまう事態になったのです。

 

 

他方で、神経解剖学とか比較解剖学の進歩により、人の脳がどういった進化の足取りを辿ってきたのかというのが明確になってくる内で、嗅覚だという感覚を制御する神経が生き物の歴史内でとても原始的なステージから見受けられたということが認知されることになります。

 

嗅覚と比較すれば、視覚とか聴覚は、生物進化の系統樹からいうとずっと近頃、つまり人類によって近くにあるステップとなって進展したものであるということが確実になったのです。

 

原始的な魚類に関しましても匂い刺激に応じる神経はありますので、このことは過去に嗅脳と呼ばれており、いずれ進化の末に人の大脳へと変容を成し遂げる「最初の一歩」と考えられます。

 

人類に12本存在する脳神経の中で第1番目の神経を嗅神経と称するのだって、その神経の原初性より着想された神経解剖学の慣習ではないでしょうか。

 

 

視覚とか聴覚が無くても、香りといった化学物質に作用する神経のみあるなら、危険性を感じ取ってそれを遠ざけ、栄養分に転じるのを見つけ出し、伴侶を探し出したり生殖活動を引き起こすことが可能で、原初の生き物はそれのみで生存していけたのです。

 

進化の最中に、その原始的な嗅覚の他に、聴覚とか視覚といった知覚を得た生き物はそれだけ生存が上手くなったでしょうが、例え初めに視覚のみ進化させてしまっても、嗅覚がないと生き延びていけなかったのでしょう。

 

当然、鳥類みたいに視覚を発展させた最後は嗅覚を退化させてしまった種も存在するんですが、初期段階から嗅覚抜きですぐそこに到ったわけではありませんし、現代の研究だと、鳥類だってこれまで捉えていたよりも嗅覚を利用しているということが明確になり始めました。

 

例えば、嗅覚を遮断された伝書バトは巣に帰還するのに従来より長い時間要されたり帰り着けないというのです。

 

 

どちらにしても、そういった理解がない時世から原始的な感覚と捉えられてこられた嗅覚が、現在の生物学により、生物進化の歴史において特に前の来歴を有する感覚であることのお墨付きをしていただいたみたいなもので、私たちが極めて普遍的に、嗅覚を伝統とか理性とは全然違う、本能的で原始的な感覚と見做す性質さえ、こうした見識の延長線上に存在するものというわけなのであります。

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